皆さんは「一度行ってみたいと思ってる場所」ってありますか?
手羽にとって「一度行ってみたかった場所」は間違いなくここ。
三鷹天命反転住宅です。
芸術家/建築家の荒川修作さんとマドリン・ギンズさんによる2005年に竣工した建物・・というか作品で、「死という宿命(天命)を反転させる」をコンセプトに、ここに住むと身体の潜在能力が引き出され、人間は死ななくなるのです。そう、実際に賃貸住宅で住むことができます(今は埋まってますが)
宮崎駿さんが荒川さんを傾倒してたそうで、確かに宮崎さんのアニメから受ける人生観は近いものがあるかも。
え。荒川修作を知らない?・・・そういう時代になりましたか・・。
「荒川修作」という名前を知らなくても、東京・多摩地区に住んでる人であれば「東八道路を走ってたら突如出てくるカラフルでビビットなアパート」で通じるかな?
荒川修作さんの作品といえば、
岐阜にある養老天命反転地が有名かもしれません。
手羽が次に行きたい場所はここなんだけど、まずは天命反転住宅をクリアしてから行きたい気持ちがあって(笑)それと岐阜ってあんまり行く用事がないのよね(ぼそっ)
日本で荒川さんの作品を空間で感じられる場所だと他にも、
奈義町現代美術館の「太陽」の部屋 ≪遍在の場・奈義の龍安寺・建築する身体≫だったり、
志段味循環型モデル住宅[現 シティーファミリー志段味](今は見れないのかな?)がありますが、やはり最初に体感しておきたいのは間違いなく天命反転住宅だと思ってて。
といっても、常に開放されているわけではありません。
9戸の集合住宅でできており、実際に住んでる方もいらっしゃるため、予約制の見学会・ワークショップ等イベントの時にしか中には入れないんです。ずっとずっと行きたいと思ってたんだけど、なかなかタイミングが合わず今に至ってました。
で、たまたまWEBを見てたらGWに見学会をやってることを発見し、「これだああ!!」と家族で行くことを決心した、と。
天気がすごく良くて、晴れの日にこのカラーリングはマッチしてるんだけど、色が飛びすぎちゃってなかなか写真を撮るのが難しい・・。
でも外から見ると「派手で落ち着かない建物だなあ」と思うけど、自分をこの空間の中におさめると、意外と違和感がなく、むしろ落ち着くことに気が付きます。なぜかは後で。
ちなみに形状の異なる立体を建物として組み上げるには相当の強度が必要で、その堅牢さは「原発クラス」なんだそう。(塚原 史著「荒川修作の軌跡と奇跡」より )
しばらく写真だけでお送りします。
この建物・作品において過剰な文字情報はいらないですね。
さて、いよいよ部屋の中に入りましょう。
あああ。ここに入るのに10年以上かかってしまった。。
でも素直に嬉しい(涙)
入ってすぐに感じるのは、カラフルなことよりも、
床のデコボコ。
リビングダイニング&キッチンは全部こうなってて、大人と子供の土踏まずの大きさに盛り上がっています。なおかつ床(と天井)も斜めになってて、平行な場所がない。
見た目歩きにくそうだけど、裸足になると自然と気持ちいい箇所を選んでる自分を発見します。
三鷹天命反転住宅の正式名称は、「三鷹天命反転住宅~ In Memory of Helen Keller~」です。
なぜ「ヘレンケラーのために」なのか。
さまざまな身体能力の違いを越えて、この住宅には住む人それぞれに合った使用の仕方があり、その使用法は自由です。与えられた環境・条件を当たり前と思わず過ごしてみるだけで、今まで不可能と思われていたことが可能になるかもしれない=天命反転が可能になる。
その「天命反転」の実践を成し遂げた人物として、ヘレン・ケラーを作品を制作する上でのモデルにしたんだそうです。
写真や図面で見るよりもコンパクトにまとまってますね。
この見学会ですが、GWということもあるのか
この回は30人近い見学者がありました。
ここに写ってるのは男性ばかりだけど、手羽家のように子供と一緒に来てる家族もいれば、建築系学生さんっぽい方、カップルもいました。
内装・外装に14色の鮮やかな色が使われていて、さらにどこから見ても常に6色以上が視界に入るように設計されています。
というのも、例えば3色ぐらいだと「なんか赤が足りない」「ゴチャゴチャしてる」と色を情報として認識してしまうけど、人は一度に6色以上が視界に入ると脳が勝手に「全体の色」としてバランスを保つようになり、あまり違和感を感じなくなるんだとか。この補色っぽい色合いも関係ありそうですね。
だから実際に中に入ってしばらくすると、目が慣れてしまうのです。
丸い畳の部屋。
四角い畳だと特に日本人はフチにそってすみっこに座ってしまう傾向にあるけど、丸なら真ん中にゴローンとしてしまう。
寝室。写真に写ってる方は学芸員の松田 剛佳さん。
写真左側を見ると、下の方にスイッチがあるのわかりますか?部屋の照明スイッチがこの場所にあるんです。
これも普段使わない筋肉・やらない姿勢を使うことで感覚を再確認するために設計されたんだそう。
バスルーム。(というかシャワー)
この裏側にトイレがあります。
どの部屋もドアがないんですよ。お風呂はカーテンでもつければいいけど、トイレは・・・手羽は厳しいなあ・・。
勉強部屋兼プレイルーム。
中は完全な球体になってて、ツルツル滑る(笑)
でも、さっきから「寝室」「勉強部屋」と書いてきましたが、どこをどう使うかは自由で、ここで寝ようと思えば寝れます。
この三鷹天命反転住宅のコンセプトは「自分・身体性を感じる」だけど、この球体の部屋は自分の声や発する音が反響して、今までとは違った感覚に陥ります。
視覚・触覚だけでなく、聴覚をも感じる場所になっていて、長澤学長の言葉を使うならまさに「心の音を聞ける場所」かもしれません。
しかし、この反響効果を設計段階で想定してたと思うと、荒川さんはほんとすごいなあ・・。
奥さんが「でもフラットスペースがないから、これだとタンスとか置けないよね。荷物はどうすりゃいいのよ」とつぶやく。
ちゃんとそれも考えられてて、
天井に無数のフックが付いてるんです。
そう、「吊るし収納」なんですね。構造体にフックがついてるからハンモックやブランコをつけてゴロンとすることもできます。
実は以前から三鷹天命反転住宅に行きたかった裏理由がありまして。
荒川修作さんが「武蔵野美術学校中退」と自分の大先輩にあたることもあるんだけど、
これが意外と使いやすそうな空間になってて。
吊り収納も悪くない。
冒頭で「見学会でしか入れない」と書きましたが、実は他にも方法があります。
それはショートステイプログラム。
3泊以上なら、今回入った部屋を含めて宿泊することができるんですよ。
2人部屋の「極限で似るものの部屋」と4人部屋の「気配コーディネーティングの部屋」があり、貸し布団サービスがあるのでホテル気分で泊まることができます。
ただ上述したようにシャワーとトイレに扉がないので、泊まれるのはよほどの親友同士か、新婚さんか、小さい子供の家族かなあ・・・思春期の子がいる、そしてトイレは密室空間でありたい手羽はちと無理かも・・。
また、DVDが出ています。
■死なない子供、荒川修作
「人は死なない」と断言した男・荒川修作と、「死なない家」に住む人々の生命の記録を収めたドキュメンタリーです。
三鷹へ行けない人は、こちらのDVDをお勧めします。
ようやく念願の地へ行くことができて、ちょっと興奮状態になってます。このままGWに養老天命反転地へ行っちゃいそうな勢いで、なんかが呼び覚まされたというか、変なスイッチが入ってしまったというか。
気を付けないと・・。
以上、事務所にぶら下がってたバックを見て、
「あ。『天命反転』って英語では『Reversible Destiny』なんだな。英語の方が荒川さんが言わんとしてることが伝わるかも」と思った手羽がお送りいたしました。
【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。