【ビダニュー2018】美大では友達を作りやすい。だけど・・

2018年3月30日(金)

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美大に入学される方の疑問に答える「ビダニュー」シリーズをお送りしています。
これまでの話はこちら。
【ビダニュー2018】美大入学式で何を着ればいいのか?
【ビダニュー2018】新入生の10の疑問に答えます
ムサビ基準で書いてますが、どの大学もだいたい同じはずなので参考になるはず。
また、「●●があると便利」「あの授業を取れ」みたいな話は学生さんに聞いてもらった方が早いので、手羽は「考え方」「捉え方」を中心に書いています。
 
 

オリエンテーションや授業の心配よりも、やっぱり「友達ができるだろうか・・」という不安の方が新入生は大きいと思うので、今日はそんな疑問にお答えしましょう。


結論は「友達を作りたいと思ってるなら、美大ではそれほど苦労はしないはず」です。

なぜなら美大授業の特徴でもある「課題発見」「企画・構想」「制作」「発表」「講評」というシステムは、自分の考えや表現をみんなに知らせたり、同じ釜の飯を食べることになるんで、コミュニケーションが自然と発生し、仲間ができる仕組みなんです。
総合大学だと自分が取ってる講義を聞くのが中心になるんで、サークルやゼミ以外はたまり場がない場合が多いけど、美大だと1年から授業でのグループワークが多くあるし、制作はみんなで一か所でやるので、通常の大学よりも友達を作りやすい環境であるとも言えます。
よく私が書いてることですが、最近になって「アクティブラーニング」だの「ラーニング・コモンズ」だの「思考力・判断力・表現力等の育成」と叫ばれるようになりましたが、美大はそんなこと昔からやってるんですよね。

タマビのPBL科目、ムサビの造形総合II類、京都造形のマンデイプロジェクト、京都精華さんの全学プログラム「SEEK」は他学科混合実技授業なので他学科の学生さんと仲良くなれるし、ムサビだと夏に東京工業大学との合同ワークショップがあるので参加すれば東工大の知り合いもできます。


  • 3月には東工大・電通大・ムサビ合同のワークショップもありました

授業以外だと、4月、5月は各学科、課外活動協議会、サークルが主催する新入生歓迎コンパ、略して「新歓」が頻繁にあります。
サークルや芸術祭(学園祭)実行委員会に入るのも常套手段だし、入試教室整備アルバイト等美大特有の学内バイトもあって、それで他学科の学生と仲良くなるケースもよくあります。

さらに今は授業・サークル以外でも有志チームがワークショップやったり、イベントやることが増えてますね。
ムサビを例にとると、グッドデザイン賞を獲った「旅するムサビプロジェクト」(略して旅ムサ)がまさにそう。これは完全な自主活動で「旅するムサビ」に偽りはなく、日本全国はもとより3月には台湾にも行ってます。


基本的には自腹活動なのに毎回これだけの希望者がいるのがほんとすごく、信じられないかもしれませんが台湾も学生さんの自腹です。
ちなみにやる気のある方だけに参加してもらいたいので、社会連携チームが外部からの依頼と内部メンバーを取りまとめ、登録者だけに声をかけています。あ、4月に説明会をやるので参加してね。

ムサビ学生広報局や、嘉悦大や津田塾等小平市の学生でやっている「こだプロ」(メンバー募集中)、カレーライスを1から作る関野吉晴ゼミは映画や本にもなったし、タマビ・東京造形・女子美だとアートラボはしもとでの活動や東京藝大の「とびラー」なんかもそうなんじゃないかしら。
手羽が学生の頃は「授業やサークル以外で学生有志が外で活動する」なんてことはほとんどなかったから、ほんとに今の学生さんはすごいです。


全部に共通してるのは、「自分からドアをノックしないとダメ」「自分から情報を集めにいかないと気が付かない」ってこと。
「大学ではなんも面白いことがなかった。クソだ」と嘆いている卒業生がたまにいるんだけど、たぶん「面白いことは誰かが用意してくれて、この優秀な自分に紹介してくれるもの」と信じてる人の可能性が高いです。ここに紹介したのはほんの一部で、もっといろいろあるし、もっと言うと「面白いものがないというなら自分で作ればいいんじゃね?」で。
高校生から受験相談で「ムサビには陸上部がありますか?」と聞かれることがあるんだけど、「ないけど、ほんとにやりたいなら自分で作ればいいだけだよ」と私は答えてます。大学なんてそんなもんで。

「リア充」という言葉がバカにされる傾向にありますが、すでに「美大生」という存在が世の中的には「リア充」なわけで(笑)、美大においてはなにかとリア充の方が面白いはずだし、なにより得。高い学費を払ってるんだから、4年間大学とその環境を使い倒して、仲間を作って楽しんだ方がいいと思いません?使い倒すには美大っていい大学なんですよ。


  • ムサビ芸術祭2017の様子。楽しんだもん勝ち

ただ。

無理やり友達を作る必要はないとも思っています。

理由は3つ。
一つ目は「友達作りにはリスクを伴う」から。
高校まで自分の周りにいたのは「同じ地域で自分と同じ年代に同じような環境で育った人」だったんじゃないかしら。でも大学では一気に出身地域・年齢・思考・価値観の全然違う人たちと出会うことになります。育ってきた環境が違うからすれ違いは仕方ない。
それが大学で学ぶ良さなんだけど、ほんとに広い社会には様々な人がいるわけで、すごく仲良くなった人に裏切られたり、実は「やばい人たち」だったり「何かの勧誘」だったり、様々なケースに遭遇する機会が増えるということでもあります。

今の学生さんは私たちの頃より「外に出ていく」「周りとつながろうとする」意識や能力が高くて本当に感心するんだけど、その能力に合わせた「もしもの場合の免疫力」ができてるかというと、ちと疑問で。
人を信用しすぎるといけないこともある。でも、人を信用しなければ友達ができない。
なので、心の中に「この部分までなら裏切られても大丈夫」というスペースを作っておいて、「この人は大丈夫だな」と思ったら次のステップに移行する、というDMZ的な考え方を持つと後で何か起きたときに自分の気持ちが楽になりますよ。そうすることである程度「うん。これは想定内」で終わらせることができ、自分が傷つく部分を減らせる、と。

上記で紹介したグループは安全が保障されてるグループですが、それ以外だとやはり私たちが見て「怪しい」ものもあります。「授業以外のグループに参加してどんどん活動しよう!」と言い切ることが残念ながらできない。怪しいと思ったらサクっと抜ける勇気と「ま、想定内(笑)」と思える気持ちが大事。
ちなみに最近文科省から「今の学生世代はオウム真理教のサリン事件を知らない世代なので要注意」と連絡がありました。

二つ目は、「友達作りを優先しぎると大事にすべきものが見えにくくなる」から。
友達を作りたいばかりにあちこちに顔を出して、いろんな新歓にも出席し、サークルもいくつか入って、いろんなLineグループに参加し、ついでにバイトもいろいろやって、他大学生との交流も作って・・ということをやっていると、キャパが小さな人はいつか破綻します。
いずれ「課題を取るか、友達を取るか、恋人を取るか、サークルを取るか、バイトを取るか」を選択するはめになるでしょう。「課題はやるのが面倒だし、学費は親が払ってるから自分が損するわけじゃない」と思ってしまい、この選択肢だと友達か恋人かサークルかバイトを取ってしまう人が多い。 確かに課題を提出しなくても高校の時のように誰かから厳しく怒られることもないし、締切り2日前ぐらいにチャチャーとやっても教授は点をつけてくれるかもしれません。

「今しかできないことをやる。」
大学生活ではすごく大事な言葉です。でも本当は「(やるべきことをやった上で)今しかできないことをやる」なんですよね。 「(やるべきことをやった上で)」は 「当然だからそこまで言わなくてもいいでしょ?」と省略されちゃってるだけなんです。それに気がつかずにこの言葉の表面だけを信じちゃうと痛い目にあいます。 
 
 
そして3つ目は、「友達がいなくたってなんとかなる」ってこと。
友達がいなくても「だからなんなのよ」と思える気持ちも大事で。
「一人で美術館や買い物に行った方が相手のペースに合わせなくていいし、すんごい楽!」
「一人でごはん食べるのが何がいけないの?」
「メディアはみんなで仲良くやってたら『リア充ww』とバカにし、一人だと『ぼっちww』と小バカにしてるんだよ?あいつらはネタになればどっちでもいいんだよ!」
「もともとアーティストは一人で頑張るもの。周りの美大生は数年後には自分のライバルになるわけで、その人を成長させてあげるいわれはない」
・・・てのは極端だけど、そういう気持ちもどこかに必要ってことね。
やっぱり少しは友達がいた方がいいけど(笑)


  • ウン10年ぶりに再会した手羽の彫刻同級生。

大学時代にできた友人は今後間違いなく人生の財産となり、一生の付き合いになる人が多いです。
でも、そんなに心配しなくても自然とできるもんで、焦る必要はありません。特に美大って「(なんらかの形で)美術・デザインの世界で生きていく覚悟をしてる」という共通項を持ってる人しかいないわけですから。
上記写真は芸術祭で久しぶりに集まった手羽の彫刻同級生だけど、完全に美術に関係ない仕事をしてたのは10人中2人だけでした。「彫刻学科なんか入学しても食えない」とよく言われるけど、なんだかんだ美術の世界で食って生きてるのです。


裏ワザというか王道というか、仲間を作るために「教授と仲良くなる」という方法もあります。
あ、教授を友達にするって意味ではなく(笑)、教授は知識や経験値はもちろん、外との(安全な)関係が学生さんよりも圧倒的に広いし、企業や役所とつながってたり、そこに集まってくる学生さんは同じ思考を持ってる可能性が高いので、興味のある、もしくはそういう教授に近づくのが仲間づくりの近道だったりするんです。
ムサビだと、

デザイン情報学科でデザイン・ラウンジディレクターの井口先生なんて典型例ですね。
様々な企業、デザイン関連団体、自治体とのつながりがあり、さらに今でもそのつながりを広げようとされてます。
「僕の研究領域以外はやりたくない。産学連携なんて面倒。学生が入るともっと面倒」とおっしゃる先生もいて、教育研究機関である以上それもひとつの考え方ではあるんだけど、井口先生はかなり積極的にいろんなところと学生を巻き込んで産官学連携をやってる方。
 

視覚伝達デザイン学科の齋藤先生も然り。
齋藤先生はソーシャルコミュニケーションデザインが専門・・って書けばいいのかな?
小平市・多摩地域とムサビの活動には必ずといっていいほど齋藤先生が関係してて、「異才たちのアート展」「立川駅地下道アート計画」「小平市公共施設マネジメント」「みんなでつくる音楽祭」「まちで楽しむ」など書き出すときりがありません。いくつ地域プロジェクトを動かしてるのか、社会連携チームでも全部把握できてないくらいで(笑)
 

井口ゼミ・齋藤ゼミに入るとかなりヘビーなことになりますが、学生だけで作るグループよりももっと社会と直結した面白い体験ができるはず。なおかつ「興味ある人は誰でもウェルカム」な二人なんで、他学科でも知り合いになっておくといいです。そこに集まる学生さんはそういうタイプの学生さんばかりってことなので。

二人に共通して言えるのは「ムサビ愛」・・うーん、「ムサビ生愛」が正しいかな?
こういう先生が必ずどの大学にはいるはずなので、早く見つけておきましょ。

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。