生物は世界をどう見ているか?「環世界展」が下北沢で開催中

「他の生物に世界はどう見えているんだろう?」彼らから見える世界を想像してみると、私たち人間が見ている世界が当たり前ではないことに気づかされる。それって、アートやデザインにも非常に重要な観点かもしれない。ドイツの生物学者ユクスキュルが提唱した環世界という概念を、キュレーター、研究者、アーティストたちが追求し企画する展覧会が開催されている。

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『環世界展〜生物は世界をどうみているのか〜』という展覧会が、東京・下北沢にある、好奇心の森「DARWIN ROOM」
で始まっています。
『環世界』という言葉を初めて聞く美大生もいるかもしれません。
今回の展覧会やワークショップは、生物学の領域からだけではなく、アートの領域からも、その世界観が語られ、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科教授の陣内利博先生や、現代美術家のKAZさんも参加されます。
アーティストやデザイナーにとって大切な観察力や想像力が広がりそうな予感!美大生にぜひ足を運んで欲しい企画になっています。
『環世界』っていったいなに?本展を企画したキュレーター、釜屋憲彦さんの言葉をご紹介します。

環世界とは?

「あなたには何が見えていますか?」
そう生物たちに問いかけ、その生物から見える世界を想像してみる。すると、私たち人間が見ている世界が当たり前ではないことに気づかされます。
例えば、ダニは光・酪酸・体温という3つの知覚標識だけを頼りに生きています。
光を知覚して枝によじ登り、動物から放たれる酪酸を知覚すると落下する。うまく動物の体表に着地できれば、体温が知覚される毛の少ない場所を探して血を吸う。このような知覚と行動のサイクルによって生き抜いています。つまり、ダニは3つの情報のみによって世界を構築し、その世界に浸って生きているのです。

ドイツの生物学者ユクスキュル(1864〜1944)は、このような主体によって構築された独自の世界のことを「環世界:かんせかい=Umwelt:ウンベルト」と名付けました。客観的な環境ではなく、主体が知覚でき、働きかけることができる環境(環世界)こそ、主体にとっての現実、生きる舞台なのです。
これから、環世界というそれぞれの生物をとりまく多様なシャボン玉の中を覗き見る旅に出てみましょう。 そこにはどのような世界が広がっているのでしょうか?     


生物は世界をどう見ているか

本企画は、ドイツの生物学者、ユクスキュル著の「生物から見た世界」から生まれました。当時19歳だった私はこの本を読み、その内容に衝撃を受けました。そこには、他の生物の立場に立ち、世界を眺めてみることの新鮮さと発見に満ち溢れていたからです。
生物自身が意味づけ、働きかける独自の世界、すなわち「環世界」。決して他の環世界の主体にはなれずとも、じっくりと対象を観察し、慎重に行動と向き合い、その世界を想像してみるとき、これまで見えなかった全く別の世界が目の前に突然浮かび上がるはずです。今回、それぞれの生物が生きる世界をぜひ体感ください。
環世界という概念を提唱したユクスキュル。そして、環世界という概念の日本における理解に尽力された動物行動学者、日高敏隆氏に感謝と敬意を込めて企画しました。研究者、アーティスト、及びダーウィンルームによる学びと表現の挑戦の場でもあります。
どうぞお楽しみください。

釜屋 憲彦 かまや のりひこ
1988年島根県松江市生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科認知科学分野修了。人間の発達と記憶について研究を行う。現在、知的好奇心と創造をテーマに、イベントの企画、キュレーション活動を行っている。

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環世界展
〜生物は世界をどう見ているか〜


【日 時】2015年11月13日(金)〜23日(月)
     期間中 12:00〜20:00 但しイベント開催時は18:00まで
【会 場】下北沢・DARWIN ROOM〈2F〉LAB http://www.darwinroom.com/
【入場料】大人 ¥1,000税込 高校生以下 半額/ドリンクチャージ制

【企 画】釜屋 憲彦(キュレーター)

【協 力】*五十音順 敬称略
     池田 威秀(京都大学野生動物研究センター研究員)
     篠原 正典(帝京科学大学自然環境学科准教授)
     陣内 利博(武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科教授)
     関口 雄祐(千葉商科大学商経学部准教授)
     平松 麻 (アーティスト/油彩画)
     村松 勝久(特別支援学校教員)
     森  貴久(帝京科学大学アニマルサイエンス学科教授)
     藪田 慎司(帝京科学大学アニマルサイエンス学科教授)
     KAZ   (現代美術家/インスタレーション)
     他たくさんの研究者

【主 催】好奇心の森 DARWIN ROOM
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11月14日(土) ワークショップ(終了)

複眼体験 ワークショップ
トリの目、虫の目 
ほかの生き物の目になってみよう!

ヒトの感覚器官の五感のうち、視覚が80パーセントをしめると言われています。わたしたちが動く時、物をつかむ時、食べる時、目からの情報を頼りにします。
それは自らが動いていること。対象が動くこと。そして自らも対象も同時に動くことが確認できる器官です。耳や鼻もそうですね。
その目が身体のどこについていて、何をどのように見ているのでしょうか。ほかの生き物達はどうなのでしょうか。
わたしたちはトリでもなく虫でもないので彼らの環世界は想像するしかありませんが、ここでは目と身体の関係を考察するために簡単な装置で実体験してみましょう。

講師
陣内利博 じんのうち としひろ
武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科教授

相川郁 あいかわ かおる
武蔵野美術大学視覚伝達デザイン卒。トリノート・デザイナー。

11月16日(月) アート対談(終了)

光と生き物。時と生き物。
~ 表 現 す る 環 世 界 ~

お二人の専門であるアートの領域から環世界を語っていただきます。

講師
陣内利博 じんのうち としひろ
1955年福岡県生まれ。武蔵野美術大学大学院修了。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科教授。「みること」「みせること」の歴史的・科学的な検証を通した、映像・展示・データベース・検索システム・ネットワーク構築などこれからのヴィジュアルコミュニケーションのあり方の研究をしている。「複眼を体験しよう」東京大学'98年。「複眼体験―虫になりに来ませんか?―」'05年。など複眼について研究する傍ら、受賞歴:「複眼体験」'07第11回文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品。

KAZ
ロンドン在住の作家、キュレーター。1989 ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン、ロンドン大学、経済学科卒業(学士)。2001 ゴールドスミス・カレッジ、ロンドン大学、ファインアート科卒業(学士)。時空と主観性との親密な関係を、ヴィデオという時間軸を持ったメディアや、空間を作品の一部として扱うインスタレーションなどを通じて探究している。2015「絶対の今」アツコバルー、東京(展示/キュレーション)


11月17日(火) 映画上映会(終了)

第18回 科学映画研究会
〜 環世界・映画鑑賞&トーク 〜


生き物の世界を科学の目で描いた、歴史に残る名作映画から環世界を考えてみよう!

《視聴映画3本》
・「ノミはなぜはねる―自然のしくみ―」
1960 製作/村山英治 脚本/佐々學 撮影/藤井良孝 音楽/大野松雄
・「もんしろちょう―行動の実験的観察―」
1968 監督/羽田澄子 監修/日高敏隆 音楽:三木稔 製作会社:岩波映画製作所
・「舶来メダカとボーフラ」
1971 教育映画祭最高賞 第27回東京都教育映画コンクール金賞 第15回ニューヨーク国際TV&フィルム映画祭ブロンズ賞

講師
清水 浩之 しみず ひろゆき
東京生まれ。1990年慶應義塾大学卒業。 映像制作業。2003年より「ゆふいん文化・記録映画祭」「山形国際ドキュメンタリー映画祭(科学映画特集、テレビ特集)」「座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル」のコーディネーター。


11月19日(木) リレートーク

泳ぎながら寝るイルカたち
〜 どんな“世界”でどんな暮らしをしているか 〜


19:30〜21:30  参加料 ¥2,000 税込
(おいしいコーヒーか紅茶Hot or Cold付き)

イルカは水の中で生まれ、そして、死ぬ。誰もが知っていることですが、イルカたちが、いかに水を感じ、水を操り、水に抱かれて寝るのか、知られていないことが意外にもたくさんあるの「どうやって寝るんだろう」、「なぜあんなにも遊び好きなんだろう」と不思議を感じイルカの観察を続けている二人の動物行動学者が、「半球睡眠」や水中ならではの遊び行動などの紹介を通し、不思議に溢れるイルカの“環”世界へと皆様を誘います。

講師
篠原 正典 しのはら まさのり
京都大学理学部卒。同大大学院で日高敏隆先生・今福道夫先生に動物行動学を学び、主にイルカの行動を研究、理学(博士)取得。
2001年から2007年までの6年間を、青森県六ヶ所村の環境科学技術研究所のミニ地球プロジェクトにで研究員兼居住者として参加。のべ42日間の閉鎖居住経験を持つ。現在、帝京科学大学・准教授。


関口 雄祐 せきぐち ゆうすけ
東工大生命理工学部卒。1995年同大学院でイルカの睡眠行動を研究。イルカのねむり方で国語の教科書に載る。イルカの睡眠から,ヒトの睡眠へと幅を広げつつ、野生のイルカの観察のために,1996年以降,イルカ漁(和歌山県太地町)の船上観察を散発的に続けてきた。


11月20日(金) 討 論 会

朝まで生トーク

研究者を中心にしたパネラー同士が環世界について、自身の意見を述べて議論するのを一般参加者が聞ききながら意見を述べることもできる徹夜会議です。できればユクスキュル著「生物から見た世界」(岩波文庫¥660)を読んでご参加下さい。

第1部 終電まで ドリンク付き
21:00〜23:30 参加料¥1000税込

第2部 始発まで ドリンク付き
24:00〜 4:30 参加料¥1000税込

《 参加予定者 》 
池田 威秀 (アマゾンからネット中継参加)・釜屋 憲彦・篠原 正典・清水 隆夫・陣内 利博・関口 雄祐・平松 麻・村松 勝久・森  貴久・藪田 慎司・K A Z・岡部みづえ・他  *五十音順 敬称略

会場の展示タイトル

シンプルな環世界から、
複雑な環世界までじっくりご覧ください!


①Earth worm’s Umwelt
 味で形を知るミミズ
②Cricket’s Umwelt
 コオロギの産卵を誘う湿り気
③The invisible paths of living things
 生物の見えざる道
④Snail’s umwelt
 カタツムリの時間
⑤Birds' eyes, insects' eyes
 トリの眼、虫の眼
 陣内 利博(武蔵野美術大学教授)
⑥Looking at Umwelt Through Paint-
ings 環世界を覗き見る絵画散歩
 平松 麻 (アーティスト)
⑦Fish’s umwelt
 魚が見る世界
 池田 威秀(京都大学野生動物研究センター)
⑧Dolphin’s umwelt
 「水」に生きるイルカたち
 篠原 正典(帝京科学大学准教授)
⑨Dog’s umwelt
 南北を向いて糞をする犬
 藪田 慎司(帝京科学大学教授)
⑩As Many as the Number of Stars
 (experiential installation)
 星の数ほど(体験的インスタレーション)
 KAZ (ロンドン在住の作家、キュレーター)

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