“作品“はつくらないけど、これも「デザイン」の仕事なんだよ ─issue+designデザイナー・稲垣美帆【いまの食いぶち】

美大を卒業した後、「社会の課題を解決するデザイナー」という職業についた稲垣美帆さん。ソーシャルデザインって何?考え方をデザインする仕事ってどういうこと? 稲垣さんが勤める「issue+design」でお話を聞いてきました。

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あのころ肩を並べてアトリエでデッサンしたり、一緒に講評をきいたりしていたみんなは今、なにをして“食ってる”の? 「issue+design」で形を超えたデザインにとりくむ稲垣美帆さんの「いまの食いぶち」が聞いてみたい。


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デザイナー

稲垣美帆

2015年に美大を卒業。社会の課題をデザインのちからで解決する“ソーシャル・デザイン”に取り組む会社「issue+design」に去年入社したばかり。
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  • 今回お話を聞かせてもらった稲垣美帆さん(写真左)。美大に通っていた頃の活動の様子。

 
物ごとの根っこの部分「なんでこうなのか?」を考える “デザイン”

高校生のときは「将来は体育教師か美術教師になりたい」って思ってた。でも体育教師になって、スポーツをずっと極めていくのは違うのかなぁって。だから美術教師のほうを目指すことにしたっていうのが、美大に行った理由。

わたしが行った名古屋芸術大学では2年生になるときに専攻を選べるんだけど、わたしが選んだのは「ライフスタイルデザイン」。デザインが形になってアウトプットされる前の段階の、リサーチやコンセプトメイクのやり方、「つくる過程」を学ぶっていうちょっと変わったジャンルのコースだったよ。

1年生の時、この専攻の水内智英先生に出会ったのが自分の中では大きかった。とにかく考え方がおもしろくてすぐに夢中になった!

もともと物ごとの根っこの部分、「なんでこうなのか?」みたいなロジックを考えないとものを作れないタイプだったから、「それを考えることも“デザイン”なんだ!」って感動したよ。


  • 授業では街歩きのフィールドワークの中で「気付く」訓練や、特定のテーマで「情報を集める」訓練をした。どっちもデザインの要素の大切な一部

 
美術の教師になりたかったから、教職の授業もまじめにやってた。授業も教育実習も楽しかったんだけど、いざ就活ってなったときにあんまりピンとこなくて……。美大の授業でやってたような物事の根っこの部分を考えることが楽しすぎて、これをそのまま仕事にしたいと思うようにわたしの興味関心が変化してたんだよね。でもそれって実際の教育現場では難しいなと実習を通じて感じて。それで “学校の先生”という職種は違うのかもしれないって思った。

あと、卒制は絶対ちゃんとやりたい、就活のためにおろそかにしたくないって思ってたから、みんなが就活してるシーズンもそっちのけで卒制のほうに打ち込んでた(笑)。で、そんなわたしを見かねて将来を心配してくれた水内先生が「issue+design」を紹介してくれて。



成果物だけじゃなく創造的な行為もひっくるめて、全部“デザイン”なんだ

issue+designは社会が抱える課題をデザインで解決する“ソーシャル・デザイン”っていうのを実践するNPO法人なんだけど、卒制が終わってからここでインターンをさせてもらうことになって、卒業後はそのまま入社した。
 

 
はじめて本格的に関わったのは、岐阜県御嵩町にある存続危機に立たされたローカル鉄道の乗車率をあげるというプロジェクト。住民の方へのヒアリングや沿線のフィールドワークにはじまって、今は町民のみなさんとのワークショップを繰り返す中で生まれたアイデアを「御嵩あかでんランド」っていうイベントにして、9月に開催するためのワークショップをやっているよ。
 


  • 出典:http://akadenland.jp/2016_autumn/
  • 地域みらい大学@御嵩のプロジェクトがぎゅっと詰まった記録冊子。2016年9月24日(土)~25日(日)「御嵩あかでんランド」申し込み受付中!

仕事についてよく「それって“デザイン”なの?」って聞かれることもある。たぶん「デザイン=なにかのかたちでアウトプットされた作品」、というイメージなんだと思うんだけど。でもデザインってそういう“成果物”のことだけじゃなくて、創造的な“行為”そのもののことまで含めた言葉なんじゃないかな。

だからプロジェクトで冊子やWebサイトみたいな”モノ“を作ることもあるけれど、ワークショップやイベントという“コト”に落としこむときもあって、それもこれもひっくるめて全部“デザイン”なんだってわたしは言いたい。
 


  • プロジェクトの中身はいろいろ。この日は「JINBOCHO 1213プロジェクト」というプロジェクトでオフィスをファブリケーション技術を駆使してセルフビルド!

 

「自分はこれができます」って言い切れる強みをいま、模索しているところ

たとえば自分に、美大で勉強してきたような“考え方”をツールに、“作品”をつくるアウトプットのスキルがあれば、「イラストレーター」「グラフィックデザイナー」など、みんなにわかりやすい肩書を名乗れてたのかもって思う。

でもわたしはそうじゃない。考え方をデザインしたいし、考えるスキルを極めたい。だから、その中で「自分はこれができます」って言い切れる強みみたいなことってなんだろうって、社会人二年目のいま模索しているところ。


仕事してていちばんテンションが上がるのは、新しいプロジェクトがはじまるときの、最初のオリエン。取り組むべき課題が目の前にジャーン!って広げられると、「あんなこともこんなこともできるかも…!」って可能性の予感だけで興奮しちゃう(笑)。

今やっている高知県佐川町の「さかわ発明ラボ」っていうプロジェクトも、始まったときはそんな感じでワクワクした。佐川町は人口1万3000 人の森林が豊かな町。ここの地域資源とデジタルファブリケーションを掛け合わせることで、地域課題を解決するしくみや商品を「発明」しようというのがこのプロジェクトなんだ。


3Dプリンタやレーザーカッターなんかを備えた「さかわ発明ラボ」っていう施設をオープンしたり、地元の小学校で世界にひとつの動物ロボットをつくる「さかわロボット動物園」っていうワークショップをやったりしたよ。先生役をやりながら、「あれ?これ高校生のときの夢だった美術教師みたいなことしてるな」って思ったり(笑)。
 


  • 「さかわ発明ラボ」のワークショップで、地元の小学校がつくった世界にひとつの動物ロボット

 
ちなみにいまこの「さかわ発明ラボ」っていうプロジェクトでは、「発明家」を募集中なの(笑)。この町には地域資源も、最先端のデジタルファブリケーション設備も、専門技術を持った協力し合える仲間もいる。そういうものと、それぞれがやりたいことや得意とすることを掛け合わせたら、なにかすごいものが「発明」できるんじゃないかな?っていうのがわたしたちの考えてること。だからこの募集で応募してくれる人に求めるスキルはなんでもよくて、その掛け合わせで生まれる「発明品」も、商品・サービスとか、仕組とかアートとか、なんでもOK。地域課題を解決するしくみや商品がたくさん生まれたらと楽しみでワクワクして仕方ないよ。


こんなふうに、いろんな人と関わると、自分では絶対つくれないなっていうモノとか、見つけられないなっていうアイデアが必ず出てくるんだよね。そういう“発見”って何ものにも代えられないし、わたしの中では“教える楽しさ”よりも上回る価値のあるものだから、やっぱり美術教師よりもこっちの仕事のほうが自分には向いてるんだと、今は思うよ。



▼関連リンク
>> issue+design
>> 「さかわ発明ラボ」
>> 「御嵩あかでんランド」

▼トップ画像
デジタルファブリケーション技術を使ったセルフビルドの実践で、issue+designのオフィスを神保町につくる「JINBOCHO 1213プロジェクト」も進行中。作業はほんとに社員みんなでDIY!


(写真:出川光/吉川晶子、聞き手:吉川晶子)

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